帆を立てよ



prrrrr、、、


prrrrr、、、


出勤途中にスマホが鳴る。
番号は知らない番号。でも市内だ。
嫌な予感はしていた。
だってその日の天気はどんより空の曇り模様だったから。


恐る恐る通話ボタンを押す。
息子の専門学校からだ。
その時点で嫌な予感は確信に変わった。

私の息子にはサボり癖がある。
不真面目というよりもメンドイからサボる、というクセがある。ただサボるだけならまだよいが、嘘をついてサボるというやっかいなことをする。
これまでも幾度かそれが発覚し、バレては私に叱られ、またバレる・・・というのを繰り返してきた過去が確かに存在する。

それがまた起こった。

電話は担任の先生からであり、どうやらこのままでは卒業出来ないとのこと。
出席日数が足りず、補習を行わなければならないが、来ていないとのこと。
しかもその前の一週間はインフルエンザだとウソを言い、学校を休んでいたらしい。
当然、そんな事実はなく、その日もそれ以前も普段通り朝は学校に向かうために家を出ていた。


また起こってしまったということ。

卒業出来ないかもしれないということ。

出勤前という個人的には一番しんどいタイミングに分かってしまったということ。

空は救いようのないほどどんよりしてるということ。

混乱しそうになった。
というより怒りが込み上げてしまった。
即座に電話を切り、息子に掛ける。

かなり長い呼び出し音が鳴っていた。
きっと出たくなかったのだろう。
ようやく出たので、どこに居るのか?と聞くと答えない。私も出来るだけ落ち着いて話そうとはしていたが、出来ていなかっただろう。

学校の先生から電話があったということ。
全て分かってるということ。
私は伝えた。

すると息子は「ごめん」と謝る。
そこで追い打ちをかけるように言い放つ。

そのごめんで何が変わるのか?と。
そしてその言葉が何度目か?と。
もしこのままバレなかったらどうするつもりだったのか?と。
自分で行くと決めた学校ではないのか?と。
散々心配などをしてくれてる先生や私たちのことを何だと思ってるのか?と。

止まらなかった。
言わなくてもよいことも言ってしまった。
息子は黙っていた。
今思えばそりゃそうだろう。
反論出来る手がないし、私が隙を与えなかったのだから。
それくらい私は怒り、興奮してしまっていた。


とにかく学校に行かせるのが先決だと思い、行くように説得し、電話を切る。
(この時点で仕事はやや遅刻)

学校に折り返しの電話をして、今から行かせると説明。
そして学校に着いたら、申し訳ないがこちらに電話していただけますか?とお願いをした。


深呼吸。

いや、溜息だっただろう。

乱れた心を落ち着かせるように呼吸をしていた。

そこから会社に行き、気を紛らわせようと仕事をする。正直言って色んな不安や葛藤があった。
本当に行くのだろうか?

しかし時間は経過する。
どんな気分でも1分は1分だし、1時間は1時間。時が進むにつれて不安などは減りはしないが、心拍数は下がっていく。

やがて学校から電話があり、ちゃんと来れて話も出来たと聞く。そこで私も卒業するための道のりを聞き、内容も理解した。

その後、息子にもう一度電話を掛ける。
少し時間が経ったので、お互い落ち着いて話は出来たと思う。


どうやら息子は昔のある経験から、どうにもならないと分かっていてもウソをついてしまうことが身についてしまったらしい。
今まで知らなかった内面のことを教えてくれたが、話してくれたという事実が大事だと思い、それに関しては深くつっこまなかった。
ただ一言。「分かってやれなくてごめん。悪かった」と。

それからどうするかを聞くと、何とか卒業はしたい、とのこと。

ならばやるしかないな。


正直言って、私は専門学校というのを軽く見ていたところがある。
課題といってもちゃんとだしておけばいいだろうし、卒業検定みたいなのも、普通にやっておけば楽勝じゃないの?くらいに思っていた。
私たちの年代にとって専門学校とはそういうものだという間違った認識を鵜呑みにしていた。

実際の所は分からない。
その学校には行ったことないし、何より目の前にある山は見上げる人によって高さと捉え方が違うから。

私には低く思えた山も息子にとっては険しい山だったのかもしれない。
一般的には簡単な道のりだったのかもしれないけど、その一歩が重くしんどいものだったのかもしれない。

目線の高さはそれぞれ。

だからこそ、登りきってほしいと切に願った。



あの電話から2週間ほど経った今日。
日が沈んた頃、学校の先生から電話があった。

補習も終わり、卒業課題も提出出来たので、卒業出来るようになりました、と。

深い息を吐いた。
今度は溜息じゃない。
溜め込んでいた心配などを含み、淀んでしまった何かを追い出すように息を吐いた。

先生に感謝を告げ、少し話をして電話を切る。

そして帰宅後、息子と少し話。
先生にOKもらった時、どんな気持ちだった?と。
するとホッとしたというか、スッキリ出来たと返答。

よかった。
卒業確定よりも、その気持ちになってくれたことが嬉しかった。
誰だって困難だったり、壁に当たると逃げたくなる。実際息子は逃げたし、私だって逃げたことはいっぱいある。

でもどうしようもないときは必ず来る。
やらないといけない時は絶対来る。
そんな時、何とかやり切って終えると安堵の気持ちだけではなく、清々しくなるオマケもついてくる。

この気持ちは体験しなければ分からないし、いつだって体験出来るものではない。
だからこそ、今回の件でその貴重な気持ちを持てたことに私自身、安堵した。

それを味わえただけ、少なくとも行かせてよかったな、と。


因みに先生と電話した際、ぶっちゃけた話、息子は実力はどうでした?と聞いてみると、
「やれば出来たと思うんですが、全力を出してくれなかったので、正直言いまして分かりませんでした」
と聞いた。

何とももったいない話である。


最後に息子にその話を伝える。

可能性はいくらでもあるのだ、と。

でもとことん全力でやらないと何も分からないのだ、と。

そして今日感じた心の輝きを忘れるな、と。




人が何かを始めるのに遅いというのはない。
今の時代は特に。
更にそれが若いというなら尚更のこと。


息子よ、帆を立てよ。


凪はない。必ず風は吹いている。
追い風か向かい風かは分からないが、強い潮風が吹いている。

未来に向かって船よ進め。


今日はこの辺で。
ではでは~

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